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私たちが目指すこと

Our Mission

フランスやアメリカであたりまえの栽培環境を日本にも

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代表理事 鹿取みゆき 

(信州大学特任教授/ワイン&フードジャーナリスト)   

 

  1950年代、フランスやアメリカでは、数多くのワインブドウの樹がウィルスにかかり、生産性や品質の低下を招きました。特にアメリカでは、出回っている苗自体の品種や出自さえ不正確であるという事態に生産者は悩まされていました。こうした生産者の窮状をみて動き出したのが、植物病理学者などの研究者、国や大学の研究機関です。各地のブドウ園を訪問し、ブドウの枝を集めて品種を見極め、さらにはウイルスフリー化して登録する取り組みが始まりました。こうして、フランスやアメリカでは、ブドウ苗のクローンが認定されるようになったのです。初めてフランスでクローンが認定されたのは、今から約半世紀前、1971年のことです。 そして現在、ワインの品質向上、収穫時期のリスク分散を考えても、一つの畑に多様なクローンを植えることは、世界のワイン産地では主流になっています。

 

 翻って日本はどうでしょうか?

  日本の苗木商の中で、クローンでの注文が可能なところはわずか数社のみで、さらに1品種あたりに提供できるクローンの種類が海外に比べて極端に少ない、あるいは全くないのが実情です。私自身は、長年にわたり、日本各地のブドウ園やワイナリー、訪問を続けてきました。多くのブドウ園においては、自分たちが栽培中の品種のクローンがわからないといったケースが頻繁に見受けられました。それどころか、ブルゴーニュワインでも知られるピノ・ノワールという黒ブドウを注文したものの、いざ、ブドウが実をつけてみると、白いブドウの房がなったということが起きています。

 

 ワインの味わいはブドウで決まるとも言われており、何を植えるのかは重要な問題です。また気候変動を考慮しても、多様な品種及びクローンのアーカイブを持つことは、大変意義があります。つまり、クリーンかつ多様なクローン、品種のアーカイブを持つことは、日本のワイン産業の根幹になると我々は考えています。日本ワインブドウ栽培協会では、ウイルスフリーの多様な品種、クローンを輸入して、それを提供するシステムの確立を目指します。同時に、ブドウの病害虫、品種やクローンの特性についての知見を共有するなど、全国のワイン生産者のみならず、全てのワインブドウを栽培する農業者を支援して行きます。

2019年平成最後の春

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鹿取みゆき(かとり・みゆき)

東京大学教育学部教育心理学科卒業。『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材しン、ワインと食と農業をテーマに講演も多い。国税審議会委員、総務省認定地域創生アドバイザー/千曲川ワインアカデミー運営委員統括なども務める。

日本の環境に合った独自の栽培技術の確立のために

理事 ブルース・ガットラブ

(醸造家/10Rワイナリー代表社員、ココ・ファームワイナリー取締役)   

 

 私が日本でワイン造りを始めてから30年の月日が経ちます。世界のワインの歴史から見ればほんの一瞬の時間にすぎませんが、この間に日本のワイン産業は大きな変化を遂げました。品質、消費者の意識も著しく高まり、新しいワイン産地が毎年のように誕生しています。とはいえ、日本ワインの歩みは、まだまだ道半ばです。日本という土地でのワインブドウ栽培で次々と立ち上がってくる「謎」に対し、これまで以上に活発で統合的なアプローチが必要とされています。

 

 日本で高品質のワインを造るために最初に試みられたのは、ヨーロッパの栽培技術を忠実に再現することでした。しかし、その結果は期待外れに終わりました。ワイン造りとはすなわち農業であり、その土地と密接に関わっているからです。ブルゴーニュやボルドーの土や気候と切り離してその手法だけをまねてもだめなのです。雪の北海道から亜熱帯の九州まで日本の気候は実に多様で、ほかの多くのワイン生産国とも土壌がかなり異なります。私たちの畑は、日本独特の病害虫の危機に、常にさらされています。 

 

 近年では、日本独自のワインブドウの栽培方法を確立していく必要性が認識されてきました。しかし、現状では、土地に適したブドウを探そうにも、クローン、台木、レアな栽培品種を選ぶ余地はほとんどありません。また、ウィルスにかかったブドウ樹がブドウ園にあることで、品質や経済性の面で深刻な悪影響が起きています。全国の生産者たちと、国内外とのワイン研究機関や研究者たちとの連携も不十分です。未だ発展途上にある日本のワイン産業で、より高品質のブドウの生産を目指すためには、新旧の、つまり、日本各地に根付いた伝統的手法と、最先端のブドウ栽培研究の統合が必要とされています。

 

 JVAはさまざまな変化の原動力をつなぎ、それらを日本のすべてのワイン生産者に提供していきたいと考えています。日本のブドウ栽培者たちは、情熱的で才能のある人々であふれています。JVAが、日本ワインの未来を照らす場となることを期待しています。  

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Bruce Gutlove

1961 年ニューヨーク生まれ。

カリフォルニア大学デイヴィス校醸造学科を卒業後、銘醸地として有名な「ナパ・バレー」で醸造家として活躍。1989 年に栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリーから招致を受け来日、醸造責任者に就任。日本と足利市の気候風土を研究し、そのテロワールを生かした世界に通用するワインを造り上げ、高い評価を得た。2009 年、北海道の岩見沢市に移住、2012年に「10R(トアール)」を設立。自らのワイン造りを追求するだけでなく、地元のブドウ農家も利用できる受託醸造所として、次世代の生産者たちの指導・育成にも尽力している。

日本ワインの将来に向けてガイドラインを

特別顧問 荷田瑞穂

(植物病理学博士 / バージニア工科大学助教)

 

 良いワインを造るためには健康なブドウが必要です。人間と同じくワインブドウにはカビ、バクテリア、ウイルスといった病原菌による病気が発生しますが、皆さんがよくご存知のシャルドネなどのフランス産品種は抵抗性が低く、繊細な管理が必要です。環境のことを考えると農薬を無秩序に撒くわけにはいきませんし、人の病気と同じく薬に耐性を持った菌もいますので、病気や農薬のことを熟知する必要があります。日本独自の気候、また温暖化による今後の影響を考えると、既存の慣習にとらわれることなく、品種の選択や栽培方法を柔軟に考えていくことも大切です。 

 

 例えば米国ではフランス産と他の品種をかけ合わせた耐病性、耐寒性を持つ品種を用いた美味しいワインが造られていますが、まだ日本ではよく知られていません。一度かかってしまうと治らないウイルス病に対応するため、厳重なチェック体制で作られたきれいな苗も存在しますが、残念ながら日本では流通していません。

 

 日本ワインという新しいルールにより日本で作られたブドウへの需要が今まで以上に増えていくことは明確です。JVAの基本理念として環境、経済、社会的持続性(サステナビリティ)に基づいた品質の向上、収量の拡大を目指しており、そのためにも日本におけるワインブドウ栽培の現状を理解する事が大事だと考えています。今までバラバラであった個々の生産者の経験や大学や各種研究機関の研究をまとめ上げ、適性栽培や総合的な病害虫の管理のためのツールの制作、新しい品種の導入など、日本のワイン産業の将来に向けてのガイドラインを作っていける機関でありたいと考えています。

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荷田瑞穂(にた・みずほ)

2005 年、オハイオ州立大学にてブドウの病理研究で博士号(P h . D.) 修得。2009 年にバージニア工科大学の農業技術研究所・Alson H. Smith Jr. Agricultural Research and Extension Centerにてブドウ病理の技術普及専門員となり、2012 年から同大学助教。ワイン用ブドウに特化した植物病理を研究。バージニア州の栽培環境は日本に比較的近く、かの地の経験や知見をJVAで活かせればと考えている。信州大学特任准教授として日本での病理研究活動も進めている。

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